電話ボックス生活

電話ボックスに住んでみて5年。他人の目はもうどうでもいいが、鳩の目の方が気になってきた。

些細なきっかけだった。歩き湯切りによる条例違反で職と家と眉毛を全て失った俺が途方に暮れていたところ、道端に落ちていた神様が用意してくれた家。それがこの電話ボックスだ。

その名の割に箱型じゃなくて、有り体に言えば、たぶん「球体」に近い。それに、電話もない。わたあめを作るめちゃくちゃうるさいマシンだけ設置されていた。それでも、これは電話ボックスなんだ。名前や役割に捉われて本質を見失ってはいけないんだ。聞いてるか?

3年目くらいから、転がって移動するのが上手くなってきた。最初は家具家電がひっくり返って大惨事だったけど、反重力使いの後藤さんのおかげで大丈夫になった。

森では木々に挟まれて、海では波に流されて。アメリカでは撃たれて、イギリスでも撃たれて、浦和でも撃たれて。俺たち3人の旅は、永遠に続くと思っていた。

そう、あの日ーー巨大なビーダマンに装填されて、第十二宇宙速度で射出され、あわやアレになりかけた日。育てていたヒマワリが超速で首を振り回し、乱獅子と見紛うその姿を見て微妙な空気になったのを最後に、幸せな暮らしは幕を閉じた。

なんだかんだあって、今暮らしているのは俺と煮干し5尾。通過した全ての都市から請求された住民税を合計すると、国家予算ぐらいまで膨らんでしまった。怖いな。失いたくないな、俺の命と、この煮干し。

また鳩が「煮干しをよこせ」と不気味に笑う。後藤さんを返してくれよ。