無意味物語 ~1個も回収されない50の伏線~

3つの星が並ぶ夜、その道は開かれる────。
子供でも知っている御伽噺だ。だがこれは、一片の物語ではない。そう、全ては聖なる神・アステリウスの御心のままに────。

~聖歴 A778年 ネオ詩島~

「……けて…………を……つけ……」

……また、あの声だ。

「わたしを……見……」

……10年前の、あの日。
父の形見のこの世のものとは思えない輝きを放っていたナイフと 母の形見の見たことのない紋章が描かれたペンダントを、黒衣に仮面の男に奪われ、怒りのあまりに自分でも制御できない謎の力が暴走してしまい、ある一軒を残して故郷の街を焼き尽くしているところに、うさぎのような青い生き物を連れた無口な少女が現れ、鈍く光る球体を渡され、正気に戻るとともに首元に星形のアザが浮かび上がってきた、あの日から。
海に近づいた日の晩だけ、必ず不思議な夢を見るようになった。

「またあの夢か……。」
と、誰に言うでもなく、なぜか喋れる古代アブデカ語で呟き、飛行船を模した家から出て自警団3番アジトへ向かうことにした。
訳あって、銀の矢と金が必要なんだ。

そうだ、家を出る前に声をかけないと。
「行ってくるよ、ポシュロン」
「…………。」
今日も返事が返ってこなかった。3日前のあの件がまだ響いているのかな。まあそのうちレウムも来てくれる。それまでの辛抱だ。
……と、思ってしまったのが間違いだった。
これが最後のやりとりになるなんて、この時の僕たちは思いもしなかったんだ────。
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 
 
家を出てすぐに、何かにつまづいた。
「うわっ!」
びっくりした。何かと思えば、これは……、石?変わった形の石だ。せっかくなので、かつて<狂魔神>と呼ばれた師匠に教わったばかりの収納魔法でしまっておくことにした。
「本来は収納魔法ではなく、1500年前に禁じられた位相転移魔術」……なんて言ってたっけ。便利に使えればなんでもいいのにね。

再度歩き出してすぐに、人にぶつかった。
「うわっ!」
びっくりした。このあたりでは見かけない人だった……。それに、目深にかぶったフードの奥には、炎を宿した瞳、<焔眼>が見えたし、母の形見に似ているけど違う紋章のペンダントを持っていたし、人並み外れてフラフラ歩いていた。
それにあの後ろ姿……どこかで……

再度歩き出してすぐに、人にぶつかった。
「うわっ!」
びっくりした。明らかに怪しいその男はさっきの人を追っていた。行先を尋ねられたので、普通に教えてあげた。
「ったく、王家転覆の危機に余計な仕事増やしやがって……。《黒の刃》の連中の動きも活発になってやがるし」
なんか色々と言いながら去って行った。
男の通った道には、何やら深緑の液体がこぼれたような跡があった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

今日はやたらとぶつかる日だ。というのも、深い霧が立ち込めているせい。24時間365日必ず快晴のこの島で、霧なんて初めてだ。
おかげでギルドに向かう道も分からなくなってしまった。
どうにか霧を払う方法を考えていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「助けが必要か?」
「誰だ!どこにいるんだ!」
「そんなことはどうでもよい。力を貸してやろう。願うのだ、霧を払いたいと。」
「……わかった!霧を払いたい!」
そう叫ぶと、何か暖かい、不思議な力が沸き上がってくるのを感じた。
「きりばらい!」

霧が晴れると、そこは……かつて焼き尽くしたはずの故郷だった。しかも、全ての建物も人も無事。本当にかつての故郷に戻ってきたのだろうか?
「お前には、この場所でやるべきことがある」
「やるべきことって?」
「いずれわかる」
「いずれって?」
「いずれはいずれだ、とにかく色々探してみろ」
「色々って?」

「色々って?」

この会話を最後に、その声は聞こえなくなってしまった。
厳しさの中にも優しさを感じるような、なんだか懐かしい声だった……。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

ひとまず探索してみることにした。実家を見に行ってみると、まさに自分の実家だけがおぼろげに光り輝いている。
かつて封印した正門はそのままだったので、血を浴びて真っ赤になった裏口の戸を開けて家に入った。

実家の中は記憶のままで、ちゃんと片腕がバスターになっている父も、後天的に写輪眼を会得した母も健在だった。
しかし、いたはずのない妹がいるし、和室の畳が不祝儀敷き(畳の角が十字)になっている。
僕の身体に眠るサイバネティクスの権威が作った人工心臓が強く脈打つのを感じた。
 
 
 
 
 
という夢を見た。

「またあの夢か……。」

目を覚ました俺は、傍らに置いておいた黒衣と仮面を手に取り、いつものように、繁華街へと繰り出すのだった────。

おわり